信じて送り出した側近が上級射撃兵の搾精托卵にドハマリしてアヘ顔ピースリプレイデータを送ってくるなんて…

18禁
異種姦
痛めの描写あり
捏造設定あり
ピース要素なし
レイヴンの扱うサーヴァントは、敵対するヴァレンタインのサーヴァントである。
だが、彼は己の配下に置くサーヴァントを洗脳し、ヴァレンタインではなく己をマスターとして扱うように仕向けている。
彼自身の完全なる配下ではない以上、その動向には気を配るべきものである。

「……どうした?」

彼の傍らには、ぶるぶると震えるエクレアがいた。

ORGANを開き、敵のマスターゴーストを進軍先として指定しても、
「行け、行くんだ」とその場で指示を出しても、
エクレアは、その場を離れなかった。

レイヴンは首を傾げ、怪訝な色を携えてつぶやく。

「バグか?」

バックヤードには時折、バグが生じる。
それは極僅かな、天文学的な数値ではあるが、それは確かにサーヴァントの発生源たるバックヤードで息づく現象だ。

時にそのバグは、バックヤードを問わず現世に顕れる。
そのバグは、時として不死をも実現する――。

しかし、レイヴンは一体のサーヴァントの不具合に対して、然程危機感を覚えていない。

まず――説明するまでもなく、ある程度場慣れしている者からすれば、エクレアが召喚されている時点で察している事実かもしれないが――状況が優勢である事。

エクレアという存在は起死回生の一手ではなく、念を押しての召喚である。
マスターゴーストに待機させ、敵の強襲への備えとして、またゴーストの中立化の選択肢としての役割でしかない。

また、戦力として期待していない事。

もしこれがシャルロットやミルフィーユ、Missティラミスといった有力なサーヴァントであれば、早急に対処すべきバグであっただろう。
しかし、エクレアである。
戦力としては前述の三体とは劣る以上、その優先度は低く抑えられる。

それに、もしエクレア一体がヴァレンタインの手に落ちた所で、始末など容易いものだ。

これまでに数多の命を奪ってきた針の感触を確かめ、レイヴンはエクレアを一瞥する。
相も変わらず――いや、平常とは変わっているが――震えている。

レイヴンはORGANを開き、戦況の把握と本隊の進軍を進める。

「この戦いが終われば、削除するか」

慈悲もなくレイヴンが一言こぼし、ぴくり、とエクレアが反応する。
そのわずかな反応に、ORGANに集中するレイヴンは気づけず、戦況は順調であると断じてレイヴンはORGANを閉じた。

「こんな所か……ん?」

エクレアを見やると、どこにも敵がいないというのにバックステップを繰り返している。
まるで、マスターゴーストから離れるように。

「待て。どこへ行く?」

レイヴンは針を構えたまま、エクレアを追う。

ここにきてようやく、レイヴンははっきりとエクレアが異常であると判断した。

ヴァレンタインに指揮系統を奪還されたのかもしれない。
レイヴンはその場に留まり、ORGANを開きエクレアを削除しようとする。

だが――。

「消えた……?」

何故か、開かれたORGANのMAP上から、エクレアを示すアイコンが表示されなくなってしまっている。

もしかすれば、MAP外に出てしまったのかもしれない。
そう予想し、舌打ちをする。

いくらエクレアと言えども、射撃兵である。
マスターへの攻撃に長けた兵種だ。

もし、敵マスターゴーストの下で乱戦中、防御に乏しい中で背を撃たれれば。
そこで自分が倒れ、マスターを失った自軍が壊滅。前線は瓦解し、形勢逆転を許す事になるかもしれない。

レイヴンは逡巡する。

前線を一旦留め、エクレアを探して屠るべきか。
構わず進め、エクレアに討たれる前に敵を落とすべきか。

その時、前線にいるキャンディから一報が届く。

「マスターゴーストに着いた」

ORGANを再度開く。
幸い、敵はMANAにすら欠いているようだ。
手薄な防衛を見たレイヴンは、敵マスターゴーストをまず陥落させた方が早いと断じた。

ヒールロッド、Tポーション大、リザレクションと、潤沢なMANAからアイテムを錬成していき、敵陣への参戦の用意を整える。

自らのスロットにアイテムを格納していく。その隙を見計らったように。
背後から、大きく跳躍したエクレアが飛びかかった。

「なっ――!?」

想定外の襲撃。

押し倒され、腹部を強く叩きつけられたレイヴンは、体を捻って仰向けにし、起き上がろうとする。
だが、仰向けになったところでレイヴンが見たのは、エクレアの口から粘液が己の四肢に吐きつけられる場面だった。

しかしそれだけではなかった。
エクレアは法力無効化(バインド)の法術をもレイヴンにかける。
腕も脚も法力も塞がれ、完全に彼を無力化してしまったのだ。

四肢が粘液で地面に貼りつけられ、身動きの取れなくなったレイヴンは、明確に反逆者となったエクレアを睨む。

「くっ……殺せ」

ここまでしたのだ。恐らく相手は殺害による無力化を図るだろう。
ならば、ここで抵抗して時間を浪費するよりも、殺されてやるの(クリティカルダウン)が良い。
そしてスロットに格納したリザレクションで蘇り次第、殺害を遂行したと思わせた相手の隙を突き、殺し返せば――。

そこまで考えを巡らせる。
だが、エクレアが取ったのは、その考えから大きく外れた行動だった。

エクレアはレイヴンのスロットに干渉すると、彼の所持していたアイテム類を地面に引きずり出した。
サーヴァントは、マスターのスロットに格納・再召喚される事がしばしばある。故にこそ、スロットへのアクセスは簡易にできる。

しかし、その行動に何の意味があるというのだろうか。
エクレアの思惑を量れず――そもそも、節足動物の思考など理解できはしないのだろうが、レイヴンはただ彼女の行動の行く末を見る事しかできない

エクレアは、地面に転がるTポーションをつかもうとしていた。
彼女の手は、いわゆる「鎌」の形をしている。人間の手であれば用意な「つかむ」という動作も、彼女にとっては困難なミッションである。
レイヴンが怪訝そうに見つめる中、ようやくエクレアはTポーションを鎌で挟み、「つかむ」事ができた。
どことなく誇らしげで、まるで誇示するようにTポーションをレイヴンに掲げる。

「……それを、どうするつもりだ?」

その答えに、ギチチ、とエクレアは鳴いた。
エクレアは鎌に力をこめ、Tポーションの容器にヒビを入れる。
レイヴンの胴体上空に掲げていたTポーションは、ヒビから漏出した液で彼を濡らす。

エクレアがなおも鎌に力をこめ、ついに容器は完全に壊れた。
ヒビを基点に真っ二つに割れ、ガラスの甲高い音が耳に障る。
Tポーションがレイヴンの体をしとどに濡らし、身につけた服が肌に纏わりつく感覚を鮮明にした。

使用したマスターのテンションを上げる薬である。
それを浴びたレイヴンは高揚を覚え、びくり、と体を震わせた。

――不可解だ。
テンションを得たならば、反撃時に苛烈な一撃を食らわせる事ができる。
いくら相手が「バックヤード」産まれの人外であろうと、生存本能から離れているこの行動はあまりにも愚策だ。

レイヴンの考えは確かである。
エクレアは生存本能というものには基づいてはいなかった。
――しかし、その衝動は生存本能の隣人である。

エクレアはレイヴンの上にのしかかった。
古代の大型昆虫でも存在しない、エクレアの巨躯。レイヴンよりも一回り大きな彼女の体であったが、存外重みはそれほど感じない。
哺乳類のように、外殻の中身は肉で埋まっている訳ではない。これほどの巨躯であろうとも支えうる、細い脚に似合いの重みであった。

レイヴンは内心、残念そうにため息を吐いた。
どうせ嬲られるのであれば、せめて圧迫の苦しみを得たいものだ。

だが、レイヴンはその数分後、その考えを撤回する事になる。

エクレアの口は動かず、音だけが聞こえた。
ぬちゃり、という粘着質な音。それが――彼の足元で聞こえた。

つまりは、エクレアの尾部から発せられた音。
その音の原因を探るべく、レイヴンは首を動かしてエクレアの腹越しに、「それ」を見た。

最初は蛇と思った。
それに頭がない。否を突きつけられる。
次に触手かと考えた。
水棲生物でもなし、そんな事はないと自ずから否定する。

「それ」は彼の腕ほどの太さを持っていた。
体内に収まっていた「それ」は、出したばかりで体液にぬめっていた。
先端部には穴が空き、「それ」はチューブ状の器官である事を知れた。
エクレアの意思のままに「それ」は蠢き、360度いかなる角度にも曲げられ、柔軟性があった。
「それ」はエクレアの尾部から生えている事を確認している。

「それ」は何か。
判断材料をここまで集め、それでもレイヴンは否定しようとする。

――仮に「それ」がそうであったとしても、バッタやそこらの現世の昆虫の「それ」は器用に動かない。
せいぜい、前後に抽送運動する程度が精一杯であり、なおかつ少しばかり曲げた程度で折れるようなものだ。

だが、エクレアは「バックヤード」の住民であり、現世からかけ離れた生態を持っている。
レイヴンの否定を砕く事実として、「それ」はいわゆる「産卵管」という器官であった。

戦場に立つ事は珍しくないが――この時、彼の背に走った戦慄は何年ぶりであろうか。

「何を……するつもりだ!」

未知への怯えに、声が震える。
しかし、レイヴンは痛みに怯える己を認識し、「生」の快感を覚える嗜好を持っていた。
その怯えもまた、彼に期待を持たせ、隠された興奮を駆り立てた。

虚空で妖しく蠕動する産卵管は、ついに目的をもって動き出す。
産卵管がレイヴンに向かって伸びた。

四肢を地面に縛りつける粘液は、振りほどけるものではない。
身をよじる程度でしか抵抗ができない彼の脚に、産卵管が触れ始める。

Tポーションに濡れた身には、わずかな接触すら神経に響く。
寒気が脚を伝い、背を走り、脳天にまで生体電流が届いた。
快感とも言えるが、不快とも言える。いや、もしくはその両方かもしれない。

産卵管が彼の脚を軸とし、螺旋状に巻きつき始めた。
エクレアの体液を纏ったそれは、既に濡れそぼった衣類を更に汚す。
体液は無色であったが、それは変温動物の熱を帯びている。人の身を冷やす温もりが染み出した。

「くっ……!」

抵抗の為に脚を動かすも、産卵管はぴったりとレイヴンの脚に沿っていた。
レイヴンは否応なしに事実を呑み、その産卵管の行方を目で追う。

名称通りに、触手状のそれは産卵する為に機能するだろう。
ならばその機能をどのようにして果たす?
ある種の昆虫は、幼虫の餌とするべく、生きた獲物の肉に卵を産みつけるという。
何しろ、己はその獲物としておあつらえ向きだ。無限に肉を供給できる、そんな存在だ。

寄生虫や蛆虫は経験こそあるが、そのまま卵を産みつけられるのは経験がない。
未だ知り得ぬ感覚への期待が、深層意識で浮かび上がった。

「どうせ同じならば……せめて一思いにやるがいい!」

啖呵を切る。あるいは催促。
レイヴンのその言葉に応えたように、産卵管の動きが早まった。
脚を締め上げ、産卵管の先端は下腹部にまで迫る。

同時に、彼に覆い被さるエクレアはキシャア、と声を上げた。
両の鎌でレイヴンの腕を挟み、腰を上げて前傾姿勢を取る。
彼の顔とエクレアの(あぎと)が、ともすれば触れるほどに近づいた。

エクレアの尾部からは絶える事なく産卵管が伸び続ける。
その先端が探るようにレイヴンの腹部に体液を擦りつけ続け、彼は疑いの眼をエクレアに向けた。

「どうした……? 早くしろ……!」

それとも、栄養価の高い肝臓にでも産みつけようとしているのだろうか。
しかしエクレアはどこまでも彼の予想を裏切る。

産卵管は彼の胯間をなぞると、そこでぴたりと動きを止めた。
探るような動きは、確認するような動きに変わり、産卵管は局部を掻き撫でる。

「ッ……!?」

土や草を突き破る為の産卵管ならば、硬質なものだろう。
だが脚に巻きつく事が可能なそれは、掌のように柔らかい。
そんな物体が何度も何度も、遊女の手慰みを真似する。

エクレアの体液で汚されていく股座を感じ、レイヴンは目を見開いた。

「……まさか……!」

現世の昆虫ならば、雄は雌に精包を渡す事で生殖行為は成立する。
エクレアはどうだ? これまで自分が召喚してきた幾匹のエクレアの中に、果たして雄はいたであろうか?

理性が真理の理解を拒む。
――まさか、まさか、真逆(まさか)、そんな訳があるはずがない……!
種族どころか住まう世界すら違う――そんな異物との生殖など!

否定ならば脳に幾度となく浮かんだ。
しかし現実は、目の前で展開される。

産卵管は熱心に局部をなぞる。
最初こそ、どことなくぎこちない動作であった。
感覚の鋭敏な箇所をなぞられれば、あるいは掻かれれば、肉体は心理とは無関係にびくりと反応する。
エクレアはそれを学習し、より反応する箇所を、時に強く時に弱く、執着する。

しかし――。

幾度震えども、彼の身は奮いはしない。

過去に飽きるほどに浴びた快楽である。
単なる快楽に耐える術など、備えるまでもない。
そんなものは、レイヴンを奮えさせはしない。

それでもなお熱心に局部を嬲るエクレアを見て、レイヴンは冷笑した。

「フン、貴様の愚考は分かったが、昆虫相手に欲情するような相手だと思ったか?」

尤も、それ以外の相手だろうと無理な道理だが――。

とかく、レイヴンのその言葉に、エクレアがギチ、と不快そうに鳴く。
産卵管を局部に圧し当てながら、八つ当たりのように鎌に力をこめた。

腕を挟んだ鎌が狭まり、鎌に揃った虫棘が皮膚に食いこむ。
その痛みがレイヴンの脊髄を通り、頭に甘美な感覚を運んだ。

「気ッ……ィ゛ッ……!」

不意の苦痛。
「気持ち良い」と紡ぎそうになった舌を引っこめる。

相手は昆虫の姿をしているとはいえ、命令を解する知能を持っている。
ヒントを与えてはならない。自分が奮い立つものが何なのか、悟られてはならない。

しかしわずかな痛みですら、千年の内に組み替えられた本能は、過敏に反応した。

痛みという快楽に、わずかに膨らむ。
圧し当てられた産卵管は、その隆起すらも感知した。

刹那の逡巡の後、エクレアは確かめる為に更なる痛みを与える。
(あぎと)をレイヴンの胸元に近づけて、その鎖骨に棘を刺す。

「ァッ……!」

びくん、と大きく体が痙攣した。
その振動は、覆い被さるエクレアにも伝わる。

更に、彼の身体は素直にもその苦痛を甘受した。
より膨らむ局部を察し、エクレアは確信したようだった。

産卵管で局部を嬲りながら、エクレアの鎌がきつく締まり、(あぎと)が皮膚を破ってまで鎖骨をしゃぶる。

一斉に襲いかかる苦痛に、レイヴンは後悔と興奮と覚えた。

知られてしまった。
己の嗜好を、このような異種に知られ、こうして転がされている。

自分より劣る相手に良いように嬲られているこの状況に、屈辱が胸中に満ちた。
皮肉にも、その屈辱にすら快楽を覚えるのが彼だった。
弄ばれていると自覚し、そう自覚してなお脊髄に快楽の電流が走り、そんな異常嗜好の自分を見つめ、劣等感から快楽が追加される。
加速度的に増していく快感が、精神を蝕み、肉体が奮えていく。

エクレアと彼の体液に汚れつつある布は、彼の局部の形を誇張する。
汚液でぴったりと皮膚に貼りつく布が、痛いほど肉に沿っていた。
外気に晒していないにも関わらず、一目で勃起していると分かるほどだ。

「はぁっ……! アアッ……!」

見ずとも分かる。自分の体だ。
この異界の怪物を相手にして、この身は悦んでいる。

エクレアの鎌が背中にも回された。まるで彼を抱くように。
背にも鎌の棘が刺さる。
腕は流血で真っ赤に染め上がっていた。
外気がその傷口を苛み、疼痛が脳を熱に浮かせる。

(あぎと)で食い破られた皮膚からも、だらりと血が流れていく。
首を滑る血の川が皮膚をくすぐった。
生暖かい自分の血を感じて、生きているという実感が悦楽となる。

産卵管は局部をなぞる。絶頂に未だ至らず、渦巻く快感が海綿体を極度に張り上がらせ、自分から痛みを発していた。
いっそ潰されれば楽になりそうだ。だというのに、産卵管は未だ愛撫を続けている。
肉体的な苦痛こそはないが、人間である自分の生殖器が下等な節足動物の生殖器によって弄ばれているという事が、この状況で一番の苦痛だ。

責め苦は充分であるというのに、決定的な快楽を与えられず、焦らされる時間が悠久のように永い。
股座の布の先端には、出したいものも出せずに、透明な分泌液が潮として漏れ出ていた。

「――はッ……!」

――早く。
早く、出させてくれ。

懇願が喉を出かかる。だがそれを、彼に残る理性が抑えこむ。
いくら苦痛を是とする嗜好を持てども、自分は人間だ。
この虫を相手に浅ましく嘆願するというのか。人間の矜持を捨てるというのか。

焼け切れそうな高揚の中、我武者羅に理性が訴える。

屈してなるものか。
いつか、この状況を脱する手がかりが来るはずだ。耐えろ。屈してなるものか――。

歯を食いしばり、嬌声を殺し、ただ耐え忍ぶ。

永遠と思えた時間が過ぎて、その責め苦は途切れた。

挟む鎌が、しゃぶる(あぎと)が動きを止め、産卵管が局部と脚から離れていく。
達してしまわないように入れていた力が抜け、止めていた息を荒げる。

「――ッはぁ……! ハぁっ……ぁはアッ……!」

終わったのか? 諦めたのだろうか?
わずかに希望と――そして至れない失望が、脳に立ちこめる。

快楽に塗りつぶされた本能が、急速に理性と成り替わった。
未だ体は浅ましく快楽を求め、情けない事に局部は怒張したままだ。
しかし、冷めた頭で反撃を計算する。

四肢を確認する。拘束していた粘液は、腕と背から広がった血の海に浸され、わずかに脆くなったようだ。
力をこめれば、ともすれば拘束から脱する事ができるかもしれない。
だが、それをエクレアに気づかれてはならない。気づかれれば再度、粘液をかけられる可能性がある。
試行なく一度だけで、粘液を振り払わなければ。

息を整える。筋肉に酸素を取りこむ。全力を発揮しなければならない。
静かに準備を進めていったが――それは間に合わなかった。

「ハァッ……はッ……ハッ――はっ……!?」

息が詰まる。下に視線を注ぐ。
目にしたのは、産卵管の先端が下半身の衣服の境目に引っ掛けている所だった。
無論、それを擦り下ろされれば、己の局部が露わになる。

「クッ、やめろ!」

制止は届かない。
一人と一匹の体液に濡れて皮膚に貼りついた衣服は、少々苦心こそすれ、阻む事などできなかった。
未だ治まらない局部は、押さえつけられていた布から離れ、汚らしく屹立した。
手を止めた苦痛に少しばかり萎えていたその裏筋に沿い、産卵管が滑るだけで、

「ウッ、あぁッ――!」

成す術もなく、臨界まで腫れ上がる。
先端から断続的に零れる潮が、己の臍下に垂れ、自分がどうしようもなく興奮している事を証明した。
尊厳を極限まで恥辱に追いやって、それでもこれは始まりに過ぎない。

嬲る内にレイヴンの体液も混じった産卵管の先端が、局部の先端にあてがわれる。

死の恐怖にすら恐悦を覚える彼であっても、この時湧き上がった震慄は限界値を超えていた。

「ッ――――――――!」

「抵抗」という手段すらも思い浮かばない中――。
高熱を帯びた局部は、冷たい産卵管に飲みこまれた。

「……ァッ……ぁあッ……!」

異種との結合。それは尊厳も矜持も徹底的に破壊される、精神的暴力だ。
目眩がする。目の前が白濁していく。
存在自体を冒涜されるという、この上ない辱め。
絶頂に至るには充分だ。

性感ではなく、恥辱によって、局部が脈動した。
腹の底に溜まった熱が徐々に上っていく。蛞蝓(なめくじ)並の流速が、尚更惨めたらしめる。
やがて熱は鈴口に達し、彼の局部は忸怩たる射精を吐き始めた。

勢いこそないが、緩々と。しかし明確に。
同種どころか哺乳類から大きく外れた生物の生殖器に包まれ、濁々と精液を注いでいく。

内部に溜まる精液が漏れぬよう、産卵管は根本まで局部を飲みこんだ。
そして根本をキュウと締め、一滴すら逃がす事なく密着させる。

「ゥ、クゥぅッ……!」

付け根に束縛感を覚え、ぶるぶると局部を震わせた。
射精は止まらない。なまじ遅々としたペースで流れ出る精液は、ただ時間をかけて陰嚢から抽出される。

まだわずかな量しか出していない。いっそ恥も外聞もなく、この怪物の快楽に素直になり、全て吐き出してしまえば楽だっただろう。
生殺しの状態で、締め忘れの蛇口のように精液が垂れ流されていく。

産卵管はしばらく動かなかった。
そのせいで、産卵管内部では行き場のない精液が局部の根本に溜まる。
出したばかりで生温かいその精液溜まりに局部が浸り、不快感がレイヴンを責め立てる。

不快の一つ一つの要素がまた新たな苦痛となり、継続的な快楽となり、快楽の供給が射精を絶やさない機構となる。
延々と永い射精の中、ようやくエクレアは動き出した。

産卵管を更に局部に密着させる。根本だけではなく、陰茎から雁首から亀頭まで。
人外と人間の生殖器が一体となり、精液の熱で温まった産卵管が、緩く局部を締め上げた。
肉体的には物足りないほどの性感であるが、この生物種として大きく誤った状況が何よりも甘い絶望だ。
意志も理性も届かない。ただ脳の報酬系がその絶望を貪っては、だらだらと精液を排泄する。

エクレアはレイヴンの意に介さず、排泄された精液を吸い上げるべく産卵管の蠕動運動を始めた。

「いッ……ぃイィッ……!」

産卵管は下から上に液体を運ぶべく、根本から先端に至る拍動を繰り返した。

巨大なミミズに喰われている、あるいは牙を抜いた大蛇に呑まれている――現実的に有り得ない感覚が局部にのたうつ。
そして、産卵管内部が真空に近くなった。よりぴったりと産卵管が局部に重なり、拒絶反応の身震いが起こる。

チュウッ、ヂュウッ、と、自分の精液が吸引されていく音を聞かされる。
指で耳を塞ごうにも、腕は地面に磔にされたままだ。

これ程の目に遭おうとも、射精は止まる事も早まる事もなく精液を吐き出していく。
吐き出しては、エクレアの産卵管に吸い上げられ、着々と彼女の体内に溜まっていく。

牛乳でも搾るかのような、無感動な搾取。
本能で動く下等動物に人間として扱われず、ただ子種を提供する手段として消費される。

屈辱を感じながらも、成されるがままのレイヴン。
それに対しエクレアは、突然局部を解放し、だらりと産卵管を垂らした。

「……ッ?」

解放されてもなお射精を続ける局部が、彼自身の腹を汚し始めた。
キィと鳴き、再度エクレアは粘液をレイヴンの四肢に吐きつけた。

――その拘束の為の一時の解放なのか?

そう思ったが、様子が違う。
エクレアが拘束をより確かなものにしても、レイヴンに覆い被さったまま動かない。
いや、正確には、垂らした産卵管は風を受けてわずかに揺れていた。
その産卵管の先端は、揺れれば亀頭をかすめる程の高さに調整されている。
そして、産卵管の先端が亀頭をほんの少しだけ擦った。

「……っ……」

先程の搾取を受けた身にとって、それはほんのわずかな感触に過ぎない。
快楽の途絶えた局部はようやく射精を止めた。

「っ……ッ……っはぁっ……」

しかし風が吹く度に、また産卵管が揺れ、かすめ、こすり、離れ、撫でる。
もどかしい感覚が下腹部に溜まり、局部は射精を止めども勃起したままだ。

まだ、陰嚢には出し損ねた精液がわだかまっている。
先程の通り、四肢の粘液は補強されたばかりだ。自分で処理する事もできない。
わずかに自分の腰を浮かせる事しかできない、生殺しの状態だった。

エクレアはなおも動かず、レイヴンは当然動けない。
そこで、レイヴンはエクレアの悪意に思い当たる。

「――私から……求めろという事か」

エクレアは答えず、ただ産卵管を風のままに揺らすだけだった。
レイヴンの心もまた、大きく揺れ動く。

襲われてからこれまで、数多の汚辱を受けてきた。
だがそれは受動的なものであり、自分から行った事など一つたりとてない。
そもそも相手は、人が欲情するには程遠い人外の(かたち)をしているのだ。

それを、自分から性交するなど――。

「うっ……ァあッ……」

これまでの責め苦に過敏となった心身が、想像上の辱めにすら反応する。
尿道から潮が溢れ、管に残った精液と混じり、乾き始めた亀頭を再度湿らせた。
ぬめる亀頭は感度を増し、鈴口を過ぎる産卵管の刺激がより強まる。

「ッ……!」

ほんの一端の刺激に、全身が大きくわなないた。
肉体は、種を超えて雌を求めている。精神もそれに引きずられ、産卵管を見つめる目に熱がこもるのを自覚する。

それでも、なおも、理性はしぶとく残る。
己から快楽を貪る。その一線を超える事に抵抗あるいは怯懦し、震えるばかりで動こうとはしない。
その不動が、この凌辱を長引かせる行為だと分かってはいても、それでも。

虫を相手に、人間である自分からまぐわう。
その光景のおぞましさに、人類種の沽券が悲鳴を叫ぶ。
一方、恐るべき事に――彼の芯に根を下ろす被虐嗜好(マゾヒズム)は、歓喜を猛っていた。

理性と欲望に挟まれるレイヴンを見透かしたように、エクレアの産卵管が亀頭を包んだ。

「アぁっ……!」

だが、そこまでだ。
産卵管は局部全てを取りこむような慈悲深さはなく、焦らすようにそこだけを触れる。
かといって、過剰に刺激を送りこんだりはしない。ただただ、産卵管のほんの先端を、亀頭と合わせるだけだ。

それだけで、欲望が激しく駆り立てられる。
四肢が束縛されていても、腰だけは動かせる。
動きたい。産卵管に自分の一物を抽送したい。出したい。出せない苦しみから解放されたい。射精したい。産卵管の中で果ててしまいたい――。

虫の生殖器と接しただけで、局部と欲望が爆発しそうなほどに膨張した。
やめろ、という最後の理性の声が遠くから聞こえる。
その声は、増大した欲求への抑止力とは成り得なかった。

「――あッ……ハぁあっ、あぁアっ……!」

無意識だった。
快楽を求める体は、意思を裏切って動き始めた。

情けない喘ぎ声を上げ、浅ましく腰をがくがくと動かし、亀頭を包む産卵管に自分の局部を出し入れする。
腰が動くとはいえ、脚は固定されている。わずかな上下運動しかできず、陰茎の大半が産卵管に収まる事ができない。
焦らされ続けたレイヴンの体は、そのわずかな快楽だけで射精を始めるほど壊れていた。

「はァア、ンんッ……! ィあッ、ぃいイっ……!」

人語にならない、醜い囀り。
口元から垂涎し、腰を前後する。

産卵管に力は入っていない。
脱力したその虫の生殖器の中で精液を吐き出しても、吸いこまれる事なく、自分の身に跳ね返る。
精液が鈴口からびゅくびゅくと湧いては、本来の意義を果たせずに彼の体を汚した。
自分と種を違える生物の生殖器にすら届かず、己の精液で陰茎を、陰嚢を、股座を、太腿を、臍下を、下腹部全体を白く濁す雄の姿は、どこまでも滑稽だった。

そんな自分の姿を気にも留めず、レイヴンは手が届くほどに近く、届かぬほどに遠い産卵管に向かって腰を上げる。
届かない最奥を求めて、脚全体に力をこめて、より高く。
それでも陰茎の半分も埋まらない産卵管が、今や欲しくて堪らなかった。

「あァっ、アあぁっ……!」

もどかしい。吸い尽くして欲しい。自分に残っている全てのものを出し尽くしたい。
先程まで嫌悪していた事象をも美化し、レイヴンは心の底から凌辱される事を願う。
エクレアの調教とも言うべき所業により、彼の被虐嗜好(マゾヒズム)は理性も矜持も通じないほどに肥大化した。

タガが外れ、欲求に忠実な獣畜となり、おっ勃てた性器を産卵管に押しこみ、精液を撒き散らす。
動かない虫を相手に腰を振るヒトガタは、どこまでも堕ちていく。

従僕(サーヴァント)主人(マスター)という力関係すら自ら破棄し、レイヴンはついに醜悪な願望を乞い願った。

「私のッ……! 私のをっ、その管で、呑み込みっ、包みッ……す――吸い上げて、くれっ……! 全部……! 全部、出させてくれ……!」

その言葉の一つ一つが、自分という存在を瓦解させる。
奈落に落ちるような喪失感が、破滅願望に染み渡った。

レイヴンは焦点を失った瞳で、エクレアの動きを呆と見つめる。
その間も性器の抽送を止めない様子は、喜劇じみて悲惨だった。
なおも動かず、無言の彼女に促されたように、彼は正気を手放す一つの単語をみだりに叫んだ。

お願いだ(Bitte)……! お願いだ(Bitte)っ、お願いだ(Bitte)ッ!」

明確な、要求の意思表示。
それを待っていたかのように、エクレアはついに動き出した。

既に精液があちこちに散っている産卵管で、レイヴンの性器全てを飲みこんだ。
今度は陰茎の根本どころか、陰嚢までをも、全部が全部。

そしてその全てを締め上げると、身を貫くような快楽が押し寄せた。

「ぃア゛ッ! ア゛ぁあ゛っ、イイ゛ッ! ぎぃっ気゛持ッちイ゛っ、気゛持゛ヂ良゛イ゛い゛イぃい゛イィィ゛ぃぃィっィ゛ィッ!」

あらん限りの声で、一帯に響くような絶叫が口から吐かれた。

苦痛の数値化が難しいように、快楽の数値化もまた困難である。
しかし単純な量り方で言えば、この時の刺激は彼の人生の内では弱い方だろう。
頭を針で貫かれた訳でも、心臓に剣が突き立てられた訳でもない。
単に強めに性器を握られたような、苦痛足り得ない、そんな刺激だ。

それでもなお、これだけの絶叫である。
それは、ここに至るまでの工程が、屈辱と恥辱と凌辱によって彩られたどす黒い花道であったからだろう。

そして、ここで初めて勢いよく射精した。
今までののろのろとしたものではなく、正に字面の通り、精液を産卵管の中に射ち出す。
いや、ともすれば久方ぶりの勢力かもしれない程に、産卵管の中に濁流を注ぎこんだ。

自分の意思で、虫との交尾を行っている。
完全に堕落したレイヴンは、性器を絞り上げる産卵管に感謝すら覚え、絶え間ない絶頂に身も心も委ねた。

「――はっ、ハハッ、ははっ、はハははハハッ」

喘ぎ声混じりに、空虚な笑い声が口を突いて出る。
人間というしがらみに雁字搦めであった、数分前の自分を罵倒したい気分だった。

――こんなにも気持ち良い事だというのに、何故自分はこうしなかったのだろうか?

理性も尊厳も立場も矜持も種族も正気も、何もかも捨て去ったレイヴンにとっては、現状を正しく認識する能力すらも喪失していた。
虫に精液を捧げ、対価に快楽を受け、彼はそれだけで充分だった。

「はっハははハハハっ、ハはッ、ははハははっ……」

虫に性器を委ね、与えられる悦楽を甘受する。
その役割に徹してなお、正気の欠片は残っていた。
レイヴンの目尻から、一滴の涙が頬を過ぎる。
正気の断末魔とも言うべき透明な雫が、白濁した汚穢に溶け消えた。

どくどくと送りこまれる精液を、貪欲に産卵管は吸い上げていく。
尽きる気配が見えないほどの量だった。
一般的な性欲を持てず、それこそ死ぬほど快楽(苦痛)でなければ射精できないような体である。
しかし体の機能こそ正常だ。雄として生産すべきものは生産され、溜まるものは出さなければ溜まる一方だ。
それが一気に堰を切ってしまえば、それは異常な奔流となって流れ出ていく。

「あ……はぁあンッ……」

それでも、勢いを保てるような量はない。
ひとしきり産卵管にぶち撒ければ、またどろどろと勢いを失くした射精が続いた。
それは、先のように散々焦らされた挙句の射精とはまた違う。
もうこれ以上出すものはないという、白旗の白濁液である。

「いィ……ンん……」

充足の息が、嬌ぎの合間に漏れ出ていく。
相手が生物種として想定している相手ではないが、本来の役目をようやく果たせた性器は、満足したように精液を嘔吐して、痙攣し、静止した。

全身が脱力する。気力も流れ出たように、全く動く気がしない。
だが、エクレアはなおも性器を縛り上げる。

「イ゛ッ……!」

まるで一滴たりとて残す事を許さないような取り立てである。
産卵管を上下に動かす事で、垂れ下がる陰嚢に産卵管の縁をごりごりと押し当てた。
尿道に残る精液ですら惜しいと吸引し、ヂュウヂュウと激しい水音が鳴り響く。

「アア゛ッ! ガぁっ!」

陰嚢を外気に露出させ、エクレアの後肢がそれをさする。
その感触は硬質な棒で撫でるようなものだったが、時折陰嚢に走る鋭利な肢棘の感覚に戦慄を覚えた。

そんな棘で、神経の集中する性器を傷つけられたらどうなるか――。

性器に押しつけられた無言の脅迫。
本能が危機感を覚え、脳を経ずに肉体が脊髄反射を起こす。
種を残そうという防衛機構に火をくべ、責務を果たしたばかりの精巣に鞭を打った。

「ぎイッ……!」

もう尽きたと思われた陰嚢から、また精液が湧き出てくる。
一般的な性的快感によるものではない。無理矢理に捻出したそれは苦痛を伴っていた。
生物として悲痛な射精だ。脅されて出たわずかな精液も、エクレアが無思慮に搾取する。

肉を潰して精液を出すが如き痛み。
もしかしたら精液の代わりに血でも出ているのではないかと錯覚さえする痛み。
その射精の痛みが射精の素となり、その射精もまた痛みを呼びこんだ。

通常の感性であれば、性器が委縮する痛苦。
その常識に逆行して張り詰める性器が、自分の事をなおの事異常であると知らしめる。

「ぃヂあ゛ッ……ああ゛っ……!」

これ以上出してしまえば、もう二度と射精できないのではないかと思うほど。
何度も陰嚢に棘を当てられては、自分で自分を痛めつけ、精液を差し出し、それを奪われる。

本に精も根も尽き果てたレイヴンを悟り、やっとエクレアは産卵管を離した。
離す瞬間、精液と粘液で糸を引き、ねちゃりと淫靡な音を立てる。

――終わったのか……?

終わったのだ。
そう宣告するように、エクレアはレイヴンの四肢を拘束していた粘液を(あぎと)でほぐす。

腕も、脚も自由になったレイヴンだったが、荒げる息を整えるべくぜいぜいと呼吸を繰り返した。
全身に力が入らない。精液と共に力すら奪われたようだった。

地面に転がるレイヴンに向けて、エクレアは産卵管を再度伸ばす。

自分へと近づくそれに対し、彼は恐る恐ると口を動かした。

「終わったんじゃぁ……ないのか……?」

確かに、終わった。
精液は体内に取りこまれ、産卵管の先にある卵巣に行き渡った。

しかし、同時に始まるのだ。
体構造が人間よりも虫に酷似している以上、その生態もまた虫に近い。
胎児を育てる器官を持たないエクレアは、受精卵を産みつける他ない。

先程まで柔らかかったはずの産卵管は、みるみる内に変質していく。
風に揺れるような柔らかさを持たず、突き刺す凶器の硬度へと。

そう、実際に突き刺すのだ。

逃げる気力すら失い、精神的拘束に絡み取られたレイヴンは、また新たに来たるその苦痛を――待ちわびた。

今やるべき事も、本来やるべき事も、正気を失った以上全ては塗り替えられる。
快楽の原液たる苦痛を目的とし、緑と金の瞳は狂気の輝きを湛えて催促した。

「……もっと(Mehr)……もっとだ(Mehr)……!」

出すものはとうに無いというのに、再度性器が奮い勃つ。
出し尽くした精液の代わりに潮が噴き出し、レイヴンは産卵管を歓迎した。

下腹部だけが露出している衣服を、自らの手でめくり上げる。
白く鍛え上げられた腹部をエクレアに晒し、恍惚として催促した。

「さあ……刺せ……私を……肉の袋として扱え……!」

その自嘲にすら紅潮する。

催促を受けたエクレアであったが、品定めするように産卵管がうろうろと虚空を漂った。
腹に刺すのか、腕に刺すのか、あるいは頭部、あるいは、いずれは――。

迷う産卵管を待ちきれず、レイヴンは自ら腕を伸ばした。

衣服をまくるのは右腕のみとし、左腕で産卵管を握る。
自分の精液で汚れた産卵管を、躊躇なく手で包む。

手の平に金属のような硬さが返ってきた。
既に人の肉を破る事が可能な硬度になっている。

レイヴンは産卵管を腹部へと引き寄せた。
鋭利に尖る先端を指先でなぞり、期待から深く息を吐く。

そして、自らの男性器を扱くように産卵管を擦った。
愛おしげに、本来ならば雌のものであるそれを、雄のそれのように手で慰める。

彼の精液と彼女の体液が、手を滑らせた。
深くに卵を産みつける為の産卵管が、勃起のように長く伸びる。

エクレアがキィィと鳴いた。
虫であろうとも性感はあるのか、ぶるぶると震動して喜びを表す。

「嗚呼……!」

淫靡に照る産卵管を擦る内に、欲望を抑えきれずに産卵管を腹部に当てる。
そして力をこめて腹部を刺した。

「――ッキぃい゛っ、ガアぁ゛ァッ!」

鋭利に尖った産卵管は、皮膚を破り、肉に潜り、神経繊維を断ち切る。
産卵管に侵された腹が、激痛を訴えた。

汚辱や焦らしのような、これまでの苦痛とは違う。
肉体を直接的に害する原始的な痛覚。
生きているという実感を覚醒させる、強烈な異物との交雑。

そこを、頑強に仕上がった腹筋が更なる侵入を阻んだ。
腹部にさしたる骨がない以上、胃袋や肝臓といった臓器を守るのは筋肉である。
その役割に徹する己の肉に、少しばかり口元を下げた。

より深く。自分で自分を傷つけるべく。

衣服をたくし上げていた右腕も、産卵管に添えられた。
ずり下ちた衣服が傷口に触れ、そこから溢れる血で、布が赤く染め上がる。

両腕に力をこめ、産卵管を拒んでいた筋繊維に割りこんでいく。

「ヅぅ゛っ……うッ!」

産卵管の尖端が、肝臓を突いた。
肝臓に痛みを感じる機能はないが、肉を貫かれる違和を感じる。
気持ちの悪い異物感が、言いようもなく気持ち良かった。

体内を巡る血は、心臓の拍動に合わせて貫通部から湧いて出る。
肌も服も全てを血染めにして、地面に血溜まりが広がっていった。

柔らかな体内への侵入を許せば、広げる事も深く刺す事も容易である。
レイヴンは、より深く、激しい苦痛を求めた。

自由になった腕で、エクレアの肩――より正しく言うならば前肢の付け根――に縋りつく。
そして産卵管を腹に突き刺したまま、レイヴンは腹部を前後に揺らし始めた。

産卵管は、レイヴンの中身をぐちゃぐちゃに掻き混ぜる。

「良゛イ゛ッ! ガあァッ! ふ――カグぅっ! も゛っと、もっと深ぐぅウヴッ!」

中にミキサーがぶち込まれたままスイッチを入れたような激痛。
何度も産卵管がレイヴンの内臓を貫く内に、胃や腸や肺の肉壁も突き崩されたようだった。
口に通じる食道から血が湧き上がり、口の端から鮮血を流す。

時には勢い余り、肋骨を掻いくぐり、背中から産卵管が突き出る事すらあった。
ただでさえ狂っているというのに、これ以上に狂いそうな暴虐が体の中を掻き乱す。

虫の生殖器に入れて嬌声を上げていたというのに、今度は虫の生殖器を入れられて喜悦を叫ぶ。
角度を変え、より深く求め、腹を振り動かすその様は、雌のようでもある。

「ア゛あ゛アッ! イ゛ッ! 良゛ィイ゛ッ!」

舌を口外に垂らし、臆面もなく唾液を流し、産卵管にピストン運動をかける。
腹部から産卵管を引き出して、産卵管を包んでいた肉が剥ぎ取られる快感が、
腹部へと産卵管を引き入れて、産卵管を拒んでいた肉が貫き通される快楽が、
体そのものが性器になったように、産卵管に何度も突かれて喘ぎ悶える。

肉に挟まれた産卵管も呼応するように、雄の震えを彼に伝えた。
びくびくという振動を直に感じ、レイヴンは狂笑を浮かべる。

――始まる。

これは、生命の脈動である。
新たな、しかし忌むべき命を紡ぐべく――レイヴンの体の中に、新たな異物が注がれた。

「イ゛ッ……! ッヒぎィい゛っ……!」

体内の神経が、冷たい球状の何かが腹を転がっていると訴えた。
大きさにして鶏卵ほど。しかし楕円形ではなく、真円に近い形状をしている。
肉に埋もれて、見ずとも分かる。この状況でそれ以外の何であろうか?

――卵を産みつけられた。それだけだ。
それだけの事実が、レイヴンに更なる恥辱を与えた。

腹の中に入りこんだ虫の卵には、エクレアによって搾精された己の精子がかかっている。
先程の凌辱の証拠が自分の中にある。自分の遺伝子を孕んだ虫の卵が自分の肉にある。

自分は、その汚らわしい卵の、肉の揺り籠に過ぎない。
自分は、虫の孵卵器という、雌の役割しか持ち得ない。

肉体を犯す激痛と、精神を汚す辛苦。
双方はレイヴンの心身を切り刻み、彼は胸を反らして絶叫した。

「ああ゛ァッい゛ィ゛ィい゛ァっ゛いァイ゛い゛っぎッィヂィぃ゛あア゛あい゛っいイ゛い゛イいぃィっぎャ゛ガッあ゛っハァあ゛あ゛ア゛ッ!」

一片の知性も感じられない、獣の絶叫。
喜悦を猛り、一瞬腹の動きを止めるレイヴンに対し、エクレアが腰を振った。

「ガアッ! ガアアッアア!」

醜い鴉の鳴き声を吼え、レイヴンは彼女のピストン運動に身を任せる。
抗いもしない。ただ体内で抽送される産卵管に快楽を与え貪る膣として、エクレアを甘受する。

乱暴に胴体内部を貫く産卵管は、肺袋も胃袋も散々に突き破り、どれも等しく血袋に変えた。
そのせいで、喉が開いているにも関わらず、酸素を得られぬ窒息の喜びも上乗せされる。

真っ赤な動脈血を何度も吐瀉し、生臭い鉄の臭いが周囲に立ちこめた。

「――ァ――ァァ――!」

口から血の泡を吹き、喉を震わせ被虐に興じる。
レイヴンの痩躯を太い産卵管が掻き回しては、虫の卵を産み落としていく。
その虫の卵もまた胴体の肉の海を泳ぎ、内臓は今や傷ついていない箇所がない程だった。

心臓壁を貫いて脈動するその中に、
血で満たされた温かな胃袋の中に、
養分豊かな肝臓の中に、蠕動する腸の中に、血の巡る大動脈の中に、筋肉に、脂肪に、産みつけられる場所が狭まっていけばとにかく中に――、

「――ウッ――ァ――!」

自分が、無くなっていく。
自分という存在が、虫の卵に置換されていく。
人間ではない怪物に向けて射精した、己の精液によって受精した、自分の遺伝子を取りこんだ虫の卵が、自分の中を侵し尽くす。

血の噴出口となったレイヴンの喉から、胃に産み落とされた虫の卵が、食道を逆流して吐き出される。
胃にはとうに何十個という卵が収められている。
それどころか、胃壁の外にも存在する卵の群が、胃袋を圧して嘔気を催した。

背骨にはごりごりと卵が擦れる感覚すらある。
腹の皮も徐々に張り、胴内の卵の形が皮膚越しに見える程だった。

「――ゲェッ、ガァ――!」

逆流するのは血と卵だけではなかった。
本来腹の中に収まっているはずの数々の臓器の肉片が、卵に押し出されて体外に排出されていく。
肝臓の赤黒い肉片や、黄緑色の胆嚢に、心臓の肉壁から小腸まで。
人間として必要な臓器を口から次々と吐き出し、体の中のあらゆる全てが虫の卵に置き換えられていった。

「ァ――ゥ――!」

声らしい声は出ない。肺の中身などとうに虫の卵で埋まっている。
ついには内臓全てを失って、胴の内部はエクレアの卵で満杯となっていた。

エクレアは、ようやく産卵管を引き抜いた。

産卵管が抜かれ、丸く抉られた傷口の中には、ぎっしりと詰まった卵が覗く。
大きな傷口であるのだが、奇妙な事に血はほんの少ししか流れなかった。
血を全身に送り出す心臓が、卵で潰れているからだ。

「ァァ――!」

水面で酸素を補給する魚のように、レイヴンの口が開閉する。
そこに、エクレアが産卵管を突っこんだ。

「――ッ! ――ッ、ッ――!」

小さくか細い声すらも産卵管で塞がれる。

まだ、卵はエクレアの(はら)に残っていたようだった。
だが、彼の胴にはもう産みつけられないと知ったエクレアは、まだわずかに残った食道という空間を利用しようとしていた。

「ッ! ――ッ! ッ! ッ! ――ッ! ッ!」

四肢が限界を叫び、暴れ始めた。
エクレアの四本の後肢がそれを咎め、手首、足首に鋭利な肢先が突き刺さる。

産卵管は血と肉と体液で汚れている。
そんな物体が口腔に挿入され、強制的に舌に触れられる。
それを飲むだけで寄生虫や伝染病にかかりそうな、不衛生な味がした。

口を開かれ、喉を貫き、声帯を抉る産卵管を拒もうと、食道が蠢動する。
それは単に産卵管を刺激したに過ぎなかった。

エクレアが震えた。まるで射精前の絶頂の様子だった。
レイヴンの喉を膣として、産卵管は彼の中で排卵した。

食道の奥の奥すら卵に犯されていく。
卵が食道を埋めていくにつれ、ゆっくりと産卵管を後退させ、また新たに卵で埋める。
そうして声帯に至るまで卵を出しつくし、産卵管がするするとエクレアの体内に帰っていった。

「…………」

レイヴンは沈黙する。
発声する術すら、卵で奪われているからだ。

声帯に挟まれた卵が喉を圧迫している。
体内全部がエクレアによって侵略されている。今の自分は虫の卵鞘と何も違いはない。

卵の容器としての役割を与えられたレイヴンは、びくびくと四肢を痙攣させる。
その痙攣は、これから生まれる生命にとっては揺り籠の振動に過ぎなかった。

エクレアは満足したように、後肢を彼の四肢から離した。

レイヴンが痙攣するごとに、卵が皮を擦る。
全身を苛む異物感が心身を貫くも、発声器官でそれを表現する事はできなかった。

あとは孵化を待つのみである。
そこで、レイヴンのわずかな知性が囁いた。

――一体、何日かかる?
この至上の苦痛を堪能するのはいいが、何日もこのままだというのか?

砕け散った正気を掻き集め、レイヴンが青ざめる。

――何日も、「あの御方」の(めい)から離れるというのか?

決して快感に繋げる事のできない、ぞっとした悪寒が脊髄を駆けた。

「……ッ……ッ……!」

腕が、震える。
全身を蝕む快感が、腕の動きを覚束なくさせる。

それでも、レイヴンは腕を動かした。

「ッ……!」

卵で膨れ上がった腹に手を置き、指を突き立て、爪をもって皮膚を掻く。

皮膚には、肉という補強材はない。全てが卵に置換されていた。
痙攣し、こめた力が散りゆく爪であっても、皮膚はあっさりと破られる。
皮下の卵が露呈して、レイヴンは必死に卵を掻き出し始めた。

正気を失うほどの快楽を受けてもなお、忠誠心が突き動かす。
自ら迎え入れたほどの卵は、最早恐怖の対象である。

血を纏って外に零れ落ちる己の卵を見て、エクレアの鎌が地面を掻いた。
地面には、最初レイヴンが抱えていたヒールロッドが転がっている。
それを地面に突き立てて、エクレアはヒールロッドの効果を発揮させた。

「ッ、ッ!」

卵を出すべく、自分の腹に突っこんだ右腕が、止まる。
右腕は、再生した腹の皮膚と癒着していた。

彼は不死者だ。常人とは比較にならないほどの再生能力を持っている。
それが、ヒールロッドによって更に加速させられた。
となれば、損傷を受けた腹部の皮膚は、驚異的な速さでもって卵で満たされた胴体を覆ってしまう。

「ッ――!」

右腕を引こうとするも、先程まで(やわ)であった皮膚はがっちりと腕と結合していた。
腹の中にはまだ卵が残っている。取り残された右手は、卵で揉まれていた。

「ッ!」

外に出ている左腕で、腹を叩く。
しかし卵は柔らかく、全力で叩いてみせても、圧力から逃れてぬるりと滑った。

どうにかして、何とかしてこの状況から脱しなければ――。

激痛に頭が焼け切れそうになる中、レイヴンは思考を構築しようとした。
しかし名案が浮かぶよりも前に、彼の目にある光景が映りこむ。

掻き出されたいくつかの卵の内、一つの卵が蠢いた。

レイヴンの精液を受け、命を成した虫の卵。
それもまたヒールロッドの影響下に置かれ、今まさに異種交配の結果が結ばれようとしていた。

卵の半透明な殻の下には、黒い影がはっきりと見える。
それは卵の中を回り、殻を破ろうと試行しているのだと知れた。

「……!」

自ら手繰り寄せた正気を手放して、レイヴンは垂涎する。

始まった。
待つ必要などなかったのだ。何も恐れずとも、甘受すれば良かったのだ――。

抵抗を止め、来たる快楽を待ち望む。
こんなに早く孵化するというのならば、足掻かずとも待てば良い。
闇に落ちた瞳の中で、忌むべき生命が誕生した。

殻を頭で突き破り、出てきたのは小さなエクレア。
ほんの数センチほどの体長であるが、それは母親の姿を引き継いでいた。
子種など、単に利用しただけに過ぎない。レイヴンの血を徹底的に拒絶した子供が生まれた。

キィィ、と幼虫が産声を上げる。
知性の欠片もない、原始的な鳴き声。

それが自分の精子によって生まれたと考えてしまえば、人としての驕りが奈落の底に下る。
地面に這いずり、卵鞘となって転がる自分は、そもそも元から人ではなかったのかもしれないと、過去すらも洗脳されそうになった。

周囲に散らばる卵のどれも蠢動し始め、レイヴンの周囲で産声の輪唱が広がる。
そして、腹の中に収まったものとて例外ではない。

腹に取り残された右手が、一斉に鼓動する卵を感知した。

「ッ――!」

卵の起伏を如実に表す腹の皮が、不気味に蠢く。
粘滑(ねばらか)な卵の殻から次々と幼虫が湧き出し、肢が無秩序に右手を嬲った。

百足でも這い回っているような触感は、右手だけに(とど)まらない。
腹腔が、喉奥が、虫の肢で引っ掻き回された。
既に開かれた傷口も、続々と生まれていく幼虫によって蹂躙されていく。

キキィ、キィ、キキキ、キキィ――。

くぐもった鳴き声が、腹の中で共鳴する。
皮で閉ざされた腹部に囚われた幼虫は、自由を求めて肢を蠢かせた。

その内の一匹の肢が、腹の皮膚を貫く。
レイヴンの腹に小さな肢が突き出て、傷口を開けるように動いた。
それに続いて、また一本、一本と肢が露出し、その内部に大量の幼虫がいるという事を知らしめる。

体内を躙る幼虫の大群。
生まれたばかりのそれらは、殻を破ったエネルギーを補給すべく動きを変えた。

「ッ!」

血と肉の籠の中で、幼虫はレイヴンの肉に(あぎと)を立てる。
血を啜り、肉を貪り、幼虫の群れが本能に従った。

自らの命を分けた幼虫どもは、それに飽き足らず彼の身をも欲する。
内部から陽動的に侵食されていく感覚は、鍋責めに匹敵した。

「……ッ!」

食い破られた先から、すぐに再生されていく。
彼の身は、虫の群れの胃を満たす為にあつらえられたようだった。

真に身を削られるような思いの中、更に責め苦は増していく。

腹の外に零れた幼虫も、肉を求めてレイヴンの四肢に(たか)った。
傷口の面積を広げるように、皮膚を剥がし、表面を削り取り、露出した血管から血を掻き集める。
自分の役割が卵鞘から餌へと変わり、異物感を上回る苦痛に身をよじらせた。

「ァ、ァァッ……!」

喉に産み落とされた卵からも、幼虫が沸き上がる。
喉奥の肉も幼虫の糧となり、その刺激から吐き気がもたらされる。

食道の筋肉が蠕動し、喉の幼虫を上へと運びこむ。
声帯に引っかかり、抵抗に蠢く肢が喉を破った。
流れ出た血が潤滑油となり、幼虫がずるりと口の中へと滑り出る。

不満を訴えるようにキィィと鳴く幼虫は、食欲を伴って行動に移した。
舌に肢を回して捕らえると、その舌の先に齧りつく。

「……!」

喉奥を窮屈とした幼虫もまた、食道を通って口に逃避した。
口にも溢れる幼虫が、頬肉に、口蓋に殺到する。

口も、喉も、腹腔も四肢も、幼虫によって貪られる。
やがて再生能力を上回り、腹部を食い破った幼虫は、体外に漏れ出ていく。

血で濡れた幼虫は更なる肉を求めて、体の上を這い回った。

食い荒らした腹から逃れ、臍を下り、その先に――著しく隆起した肉が待ち構える。
幼虫はそれに群がり――悦楽に勃起した陰茎に口をつけ始めた。

「――ッ!」

口にわだかまる幼虫に構わず、苦痛のままに歯を食いしばる。
ギヂュッ、という断末魔を上げ、レイヴンの口内の幼虫は圧死した。

外殻を潰され、虫の体液の味が一杯に広がる。
幼虫に剥がされた皮膚が、晒された肉に体液の不快を押しつけた。

彼の不快は、何も一箇所に止まらない。
食するに不適な体液が溜まる口も、幼虫が肉を貪る喉も腹腔も四肢も、何もかも。
しかしそれらの苦痛の中で、一際鮮烈な苦痛が痛覚神経を叩きのめす。

腹から幼虫が逃げ出し、体内にできたわずかな空洞は、肺を再生してみせた。
そして再生した傍から、できたての肺を縮小して叫ぶ。

「ア゛ア゛アアァ゛ァァッ!」

口の体液も吐き出して、喉から絶叫を絞り上げる。

性器には他の器官と比べ、神経が集中している器官である。
そんな所を傷つけられれば、それは叫ぶほどの痛苦だろう。

陰茎に身を寄せ、幼虫たちが食らいつく。
腕や脚、腹の中を食われる痛みとは段違いだ。
その(あぎと)の一つ一つの形がはっきりと分かるほど、損傷部分から激痛が発する。

「ィア゛ッ、あ゛アッ……!」

性器を害され、防衛反応が萎縮を命じた。
しかしそれを上回る喜悦が本能を圧潰し、臨界まで陰茎がそそり立つ。

精液の代わりに血が噴き出し、その汚れた血を幼虫たちが我先にと啜り出した。
そしてより多くの血を求め、数多の幼虫が亀頭に齧り、陰茎をしゃぶり、陰嚢を噛み引く。

「あ゛アっガア゛ぁッ!」

エクレアの搾精とは違う、食欲が根差した暴力。
容赦のない搾取に体がもがき、地面に爪を突き立てて苦痛に耐えようとする。

だが、もがけばもがく程、口にした肉を離すまいと幼虫たちの(あぎと)に力がこもる。
キィィキィィと抗議の声を上げながら、全身の苦痛が強まった。

「ギッ、ガっ、カぁ゛ア゛っ!」

出し尽くした後で、しばらく時間が経ったからか。
血で赤く染まったレイヴンの性器の先から、白い液体が漏れ出している。
無理矢理ひり出したが故か、粘度はない。それでもそれは確かに精液だった。

血と精液が混じった汚穢であっても、幼虫は単に栄養として受け取ったようだった。
精液の湧く鈴口に陣取った一匹が、喜々としてその出口を(あぎと)で塞いだ。
そして、捻り上げる。

「ヒがッアっぎギい゛ィイ゛いイぃいッ!」

鈴口の中にまで棘が食いこみ、レイヴンは幼虫に向けて射精した。
幼虫の全身に薄い精液がかかり、それを周囲の幼虫たちが舐め取っていく。
なおもレイヴンの精液を独占する幼虫は亀頭を容赦なく噛み絞める。

「いギッ、ぎィっ!」

幼虫の食欲は凄まじく、陰茎の輪郭が大きく抉られ、軟骨まで至るほどだった。
その苦痛だけで常人が悶絶死するような激痛に、いくら被虐嗜好(マゾヒズム)を持ったレイヴンと言えども意識が飛びかかる。

今こそ必死に目を見張り、意識を手放さぬようにもがき、自分の絶叫で自分の鼓膜を叩いて覚醒し、それでもなお目の前が白く灼かれる。
いつ気絶しても不思議ではない、不死の身であっても限界を超える激痛。

――だからといって手放してなるものか。
屈辱の極みの中であろうとも、ここまでの痛苦を、快感を、味わいつくしてやる――。

貪欲な欲求がレイヴンの意志を繋ぎ止め、一杯にこの苦境を感じ切る。
しかしその痛苦はピークを過ぎようとしていた。
腹を満たし始めた幼虫たちの食欲が鈍りつつある。あちこちで幼虫は母たるエクレアへと帰っていく。
それでも、肉にありつけなかった幼虫がまた新たに肉壁へと殺到し、レイヴンに絶えず激痛を与えていた。

陰茎は小さな振動でも折れそうなほど削り取られている。
ほんの一針の刺激であっても、意識が逝ってしまう痛苦。
その一針がいつか来るであろうという予感が、終わりは近いという警鐘となる。

そう、終わりは近い。――二重の意味で。

「ア゛ア゛アァァア゛ッ!」

大声で狂態を晒す。
激痛の波に揉まれている彼にとって、その出来事はとうに昔に消え去った出来事だった。

レイヴンの神経は、性器を要とする全身の苦痛に集中している。
正気を失った彼がようやく悟ったのは、何もかも手遅れになったというシステム・メッセージだった。

『――MASTER GHHOST UNDER ATTACK』

脳に直接、冷たい声が囁く。

「あ――」

我に返る。

「ああ、ア――」

それは久方ぶりの、嬌声ではないまともな声であった。

そもそも、現在の状況はどうであるのか。
体の状況ではない。戦場の状況である。

レイヴンが戦線から離れる直前、戦場は確かに自分に傾いていた。
敵のマスターゴーストに攻め入るまで段階が進んでいた、明らかな優勢である。

そんな優勢であっても、数十分も放置していればどうなるか。
それは火を見るよりも明白であった。

「あ゛あ゛ア゛ア゛アッー!」

激痛はある。わずかな苦痛が上乗せされれば、気絶するような激痛だ。
そして、その更なる苦痛が重なる事が確約された。

レイヴンのマスターゴーストが、敵軍によって激しく揺れる。
マスターの魂そのものたるマスターゴーストが陥落すれば、本に死ぬほどの苦痛が積載されるのだ。

振り絞った集中力で、ORGANを開く。
前線に送り出した、ありったけの戦力は全て壊滅状態である。
ゴーストは全て敵軍の色に染まっていた。
バリアは0%を指している。
いたずらに時間は経っているが故にMANAはある。だが、とうにマスターゴーストの耐久度は一割を切っていた。防衛用のサーヴァントを召喚しようが間に合わない。
何より――自身のマスターゴーストに、敵のマスターが向かう足音が聞こえた。

そこから導き出される答えは一つ――。
マスターゴーストの陥落である。

「――ンッギモヂッイイィィィィィッ!」

敵マスターの一撃が入れられ、光を放ち瓦解するマスターゴーストと共に――レイヴンは気絶する瞬間、至上の激痛を味わう事が叶った。


それで、終わった。

2187-- 17:42
7.42MB

そのリプレイデータは、そうやって終わった。

「…………」

隔絶された「バックヤード」の一区画。
部屋として設計された、とある空間。

目の前には、再生前からずっと土下座を崩さないレイヴンの姿。
報告書代わりのリプレイデータを渡す際、彼が震えていた訳がこれで分かった。

「……あー」

「あの男」は言葉を探る。

同情はむしろ傷つけるのか。
励ましなど望まないだろう。
感想などもっての他である。

GEARをも生み出した英知をもってしても、この場に適した言葉が見つからない。

「……その、ごめん」

何故か、謝罪する。

未だ無言のレイヴンであるが、この場において口を開けるのは厚顔無恥が過ぎる。
ただ彫像のように、微動だにしない。

透明な鉛が空間に満たされた、重い沈黙。
口を開く事すら重労働となるこの空間で、「あの男」はリプレイデータを削除した。

そして、口をこじ開ける。

「……忘れよう。うん。僕も忘れるから。
 今回の件については、不問にしよう。僕は何も見なかったし何も聞かなかった」

そう言って、この悲痛な空気に耐え切れず、「あの男」は部屋から出る。

「…………」

レイヴンは「あの男」が去ろうとも、しばらく土下座の姿勢を保ったままであった。
それから数分後、ようやくレイヴンが立ち上がる。

「……申し開きもございません……」

いなくなった「あの男」に対して、精一杯の詫びを入れる。

「このような……私で……」

罪悪感を覚える彼は――この上ない精神的苦痛を受け、勃起していた。

自らが敬意を捧げ、献身する相手にあの痴態を見られたという辱め。
それは尊厳も精神も殺し尽くすような屈辱であった。

だからこそ、興奮してしまう。

主人をも巻きこんだ興奮は、同時に強烈な罪悪感を覚えこませる。
それでも、悦楽に貪欲なるレイヴンの性器が、その罪悪感すら取りこみ、猛るようにそそり勃つ。
その様は、ズボンの布越しであっても明確に分かるほどだった。

謝罪を表す為よりも、この体の状態を隠すが為に、彼は土下座という態勢を取ったのだ。
このような痴態を晒すほど、彼の心身はエクレアの手によって鋭敏になっていた。

あのリプレイデータの終了から。
意識が途絶してから、意識を取り戻して起き上がった時。

そこにはもう、「バックヤード」に帰ったのか、エクレアはいなかった。
それでも、彼女がレイヴンに残した快感の残響は、普通の動作に支障をきたす程に及んでいる。

ドアノブからコップまで、何かを握る度、自分の中を抽送し喘がせた産卵管を思い出させた。
水から肉まで、何かを体内に取りこむ度、自分の中に満ちていた卵と幼虫達を思い出させた。

その想起が蘇る都度、レイヴンの性器は奮い勃つ。

そして、今――。

これまで、「あの男」に失敗を報告する時には、快楽よりも自らの不甲斐なさが勝った。
己の恥を晒して性器を膨らませるという不敬な行為など考えられず、ただ純粋に「あの男」へと頭を垂れた。

だが、今――。

こうして情けなく己の体が快楽を欲し、あまつさえ亀頭と接する布は潮でじっとりと濡れている。

「元に……早く、戻らねばならない……」

そう決意し、部屋から去るべく立ち上がる。

この体が、元の退屈な体へと戻るには、一体幾日かかるのだろうか――。
そんな苦悶を抱えて、自慰で己を収める為に、「あの男」のいたこの部屋から逃亡した。

踵を返し、翻るマントの下から――、
キキィ、と小さな娘が鳴いた。